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プロローグ:オリヴィア
その魔女はただひたすらに強かった。
その覚悟に躊躇いは無く、目の前の一切を斬り捨てる。
その眼差しに曇りは無く、常にその頂を求めていた。
愛しき相棒の生を、この手で終わらせるために。
名実ともに世界最強の魔女に贈られる二つ名、『金の魔女』の肩書を持つ彼女、オリヴィアは、今日も鼻歌交じりに『今日の街』の南地区の荒れた石畳を歩いていた。
輝く金の髪は縦に巻かれて胸元を彩り、端正な顔立ちは気品の溢れる優雅さを醸し出している。そんな彼女がこの街の南地区、荒くれ者の住処の中心部を歩いている様は、誰がどう見てもちぐはぐな光景であった。
もっとも、オリヴィアの事を知らない者などいないこの街では彼女が狙われるような心配などなく、むしろすれ違う者のほぼ全員が石畳のひび割れを数えるかの如く俯き目を合わせようとしないのである。
悠々と道の真ん中を闊歩するオリヴィアは、やがて一軒のあばら家の扉を開け、甘ったるい声色で家主に呼びかける。
「シルヴィ?シルヴィ~?貴女のオリヴィアが来ましたわよ~?」
オリヴィア独自の愛称で呼ばれた家主……シルヴィアは、散らかり放題の部屋のなにもかもを蹴飛ばしながら、仏頂面でオリヴィアの前に立ち、彼女の脛を蹴り上げた。
「あうっ、何をなさいますのシルヴィ!折角私がこうして会いに来たというのに!」
「うるせえんだよクソカス乳オバケ、こちとら昨日飲み過ぎて頭痛ぇってのになんでテメーのケバイニヤケ面に付き合わねえといけねえんだ、帰れボケ、ついでに死ね」
媚び交じりの抗議を文字通り一蹴するシルヴィアに、オリヴィアは口を尖らせる。
「あらあらそんなこと言っていいのかしらぁ~?ほぼ毎日このお家をお掃除して貴女のご飯を作ってるのは誰かしらぁ~?」
「それもそうだな、愛してるぜ相棒」
ノータイムで翻るシルヴィアの手のひらに呆れたような微笑みを向け、オリヴィアは今日も愛しい相棒の世話を始める。
これが、お互いを“殺し合う”運命を背負った二人の怪物の日常であった。
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